通算と合算 その2
〜大回りの定期券〜

定期券は?

MARSは原則として、普通乗車券の計算ルールにもとづいて運賃を計算します。 そのため、ルートを入力したときに定期運賃が出力されないのはもちろんのこと、 定期券には適用されない特例も無条件で適用してしまいます。とはいえ、 運賃の基礎となる各路線のキロ数は普通乗車券でも定期券でも変わらないので、 なんとかして定期券のキロ数を計算することを考えましょう。

例題 荻窪→蕨

荻窪(東京都)から蕨(埼玉県)まで通勤することを考えます。 このときの合理的な経路は、 総武線各駅停車で秋葉原に出て、京浜東北線快速に乗り換えることでしょう。 そうすれば朝夕とも、秋葉原で乗り換たあとではうまく行けば座っていけて、 満員の電車でも快適に通勤できることでしょう。

荻窪→蕨

さっそく計算してみましょう。 まず、発駅に「おぎくぼ」、 着駅に「わらび」と入力します。

経路の入力は少し工夫を要します。

まず、仮名か半角ローマ字で「そうぶ」と入力し、 選択肢の中から「総武中央緩行」を選びます。その次は「東北」です。 繰り返しになりますが、MARSの「東北」は京浜東北線経由での計算になります。

総武中央緩行 経由

道路地図や地形図で見ると、駅で「東北本線」と案内されている宇都宮線は尾久を通りますし、東北新幹線は赤羽〜大宮間で埼京線のルートをたどります(注)が、 どちらの場合も運賃は京浜東北線経由で計算するのが原則です。

(注)新幹線がこのようなルートになっているのは、 先に埼京線があってそれに沿わせたわけではなくて、 東北新幹線を大宮から上野に延ばすためのルートが先に決まり、 その新ルート沿線住民への便宜のために埼京線大宮〜赤羽間が建設された、 という経緯によります。新幹線と埼京線とでの騒音対策の考え方の違いなど、 いまだに難しい問題が残っているようです。

次のような計算結果になりました。 なんと、新宿から埼京線でショートカットするルートが出てきてしまいました。 これでは、往路の赤羽からも、復路の新宿からも、押しくらまんじゅう必至です。

埼京線経由の結果

これはどういうことかというと、「山手線とその内部の中央線・総武線」 「京浜東北線・埼京線・宇都宮線赤羽まで」「総武線錦糸町まで」 の区間の外から入って、通過して、出ていく場合には、 普通乗車券はこの区間を最短経路で計算しなければならない、 という規定があるのです。この区間はJRの約款「旅客営業規則」の第70条において太線で描かれているため、 一般に「太線区間」「東京大環状線」などと通称されます。

それではどうするか。実は、太線区間の特例は、「外から入って、また出て」 という場合にのみ適用されると解されています。 そこで、太線区間の途中で経路を2つに切って、あとからMARS for Windowsの 「通算」機能で通算しましょう。

まず、荻窪→秋葉原を計算します。次のような計算結果になります。 これをメモリ1に保存します。

荻窪→秋葉原

つぎに、秋葉原→蕨を計算します。これをメモリ2に保存します。

秋葉原→蕨

最後に通算します。34.7kmという結果が出ました。

通算結果

端数を切り上げた「35km」を時刻表のピンクページにある表で索いて (繰り返しますが、MARSは定期運賃を表示しません)、大人通勤1ヶ月で16480円です。

東京駅にも用事があるんだけど…

さて、この定期券を持っていると、たまには東京駅にも行きたくなります。 毎回片道140円・往復280円を払ってもいいでしょうし、 回数が多ければその区間の回数券を買うこともできます。 Suica定期券なら改札機にタッチするだけで自動的に精算してもらうこともできます (この場合は片道あたり133円)。

では、少し迂回して、中央線快速→東京駅→京浜東北線、とは乗れないでしょうか。

とりあえず、訂正されるのを承知で入力してみましょう。 発駅に「おぎくぼ」、 着駅に「わらび」と入力して、 経路は「中央東」、接続駅「とうきょう」、 路線「東北」と入力してみます。

再考 中央東→(東京)→東北 接続駅誤り

「再考 中央東→(東京)→東北 接続駅誤り」と出てしまいました。 それもそのはず、神田〜東京間は中央線と京浜東北線が並走しており、 同じ経路の往復乗車になるため、この経路は1枚のきっぷにならないのです。

そこで、
a)荻窪→神田  東京→蕨
b)荻窪→神田→東京  神田→蕨
c)荻窪→秋葉原  東京→蕨
d)荻窪→秋葉原→東京秋葉原→蕨

のいずれかの形で2枚の定期券に分けて買うことを考えます。

定期券はどちらの方向にも何回でも乗れるので、 重複となる神田〜東京間はどちらか片方の定期券に入っていればよく、 「荻窪→東京 + 東京→蕨」と買う必要はありません。 また、この買い方ではどの場合でも御茶ノ水・秋葉原・神田の三角ルートの2辺のみの券を買いますが、特例により残りの1辺も経由することができます。

この場合には、「合算」を使います。この計算結果は次のようになります。

a)
荻窪 → 神田
経由: 中央東
  JR線営業キロ: 17.4km
東京 → 蕨
経由: 東北
  JR線営業キロ: 19.7km
b)
荻窪 → 東京
経由: 中央東,東北
  JR線営業キロ: 18.7km
神田 → 蕨
経由: 東北
  JR線営業キロ: 18.4km
c)
荻窪 → 秋葉原
経由: 中央東,総武2
  JR線営業キロ: 17.0km
東京 → 蕨
経由: 東北
  JR線営業キロ: 19.7km
d)
荻窪 → 東京
経由: 中央東,総武2,東北
  JR線営業キロ: 19.0km
秋葉原 → 蕨
経由: 東北
  JR線営業キロ: 17.7km

この区間帯の運賃は5km刻みで決まっており、 実際この計算結果はすべて同じ区間帯に属する(片道普通運賃310円/IC302円、 大人通勤1ヶ月9050円)ので、どの買い方でも合計で18100円になることが分かります。 なんと、1ヶ月に6〜7回東京駅に立ち寄るだけで採算がとれる計算です。

なお、定期券を2枚以上併用する場合には、Suica定期券にできないことがあります。 SuicaなどのICカードは単独で使うことが前提だからです。ただし、2012年ごろから、 このようなT字型の経路は1枚のSuica定期券にまとめられるようになったようです。

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