前のページで東京〜八王子という経路を計算しましたが、ちょっと待ってください。 東京から八王子まで走る特急は、〔かいじ〕以外にもあります。 一部の〔成田エクスプレス〕がそれで、これは渋谷経由です。
そこで、それを入力してみることにしましょう。 「なりたえ」まで入れてEnterキーを押すと、次のような選択肢があらわれます。
〔成田エクスプレス〕は成田空港から東京駅に到着後、 新宿方面行きと横浜方面行きに分かれるので、ここでは「N'EX(新宿)」を選択します。
確かに違う結果が出ました。でも、下に注釈がついています。 神田経由の安い切符でもかまわないと出ています。
これは、「大都市近郊区間」という制度の適用を受けられるからです。 特に、「東京近郊区間」「仙台近郊区間」「新潟近郊区間」は 「新幹線を除いたSuicaエリア」とほぼ同じです。歴史的には、 Suicaエリアが広がるのにあわせて東京近郊区間が広がり、 新たにSuicaエリアになった新潟や仙台にも、 近年(特に仙台は2014年、この文書の起草最中)になって新設されました。
でるもんた・いいじまの出身はJリーグの鹿島アントラーズで有名になった茨城県鹿嶋市、最寄りは鹿島線の鹿島神宮駅です。 ここも東京近郊区間です。
ところが、鹿島線はSuicaエリアには含まれていません。 同様に、千葉県の久留里線も含まれていません。 共通する理由のひとつとして、この両線の職員の多くが所属している労働組合が 「Suicaを導入すると、トラブル対応などの負担が少なくないうえに、 駅でのきっぷ販売や乗り越し精算などは省力化されるので、 人員削減が発生しかねない」として反対している (Google検索結果参照) という点がありますが、その一点のみが理由とは考えにくく、 結局真相は不明です。
それから、常磐線の偕楽園駅(水戸市)も対象外です。 でも、こちらの理由は明白です。 偕楽園駅には独立のキロ数が設定されておらず、降車時にはひとつ先の駅まで、 乗車時にはひとつ手前の駅から乗ったものとして計算することになっているところ、 Suicaでは「原理的には」上下線どっちなのかわからないためです。 現時点では発着駅から特定できますが、もし将来、 Suicaの首都圏エリアと仙台エリアが統合されたら本当にわからなくなりますので、 その可能性を考えた布石でしょう。
さて、「大都市近郊区間」では、少し遠回りの経路で乗車する場合でも、 最短経路のきっぷを買えばよいのでした。これを逆手にとり、安いきっぷを買って、 あるいはSuica・ICOCAなどのIC乗車券で入場して、 わざと遠回りの経路をたどって車窓を楽しむ、 という乗り方をする人が少なからずいます。 このような乗り方を俗に「大回り乗車」、あるいは単に「大回り」と言います。
さて、東京・新潟・仙台近郊区間には新幹線は含まれていない、 ということにはさきほど少しふれました。 つまり、新幹線に乗る場合は経路通りのきっぷが必要なのです。(これについては、 新幹線特集のページで少し詳しく述べます。)
しかしなから、目を西に向ければ、「大阪近郊区間」には新幹線の一部区間 (米原〜新大阪、西明石〜相生)が含まれています。 特に京都〜新大阪間は都心に近くて、 それでいて270km/hのフルスピードを堪能できるという、絶好の区間です。 新大阪駅では多種多様な車両の出入りも堪能できます。 関西在住の「乗り鉄」さんにとって、こんなおいしい区間を見逃す手はありません。
さてこの区間、消費税が5%だった時代には、なんと小児は490円、 大人は990円で乗れました。「ワンコインで新幹線」というのが現実だったのです。
確認してみましょう。
出発地を、とりあえず大阪駅にしましょう。ここから新幹線 (と、並行在来線である東海道線も)を避けて京都駅に行き、 新大阪まで新幹線に乗って改札を出れば、乗車券は大阪→新大阪 (増税前の金額で大人150円、小児70円)の安いきっぷでいいのです。 そのほかに京都→新大阪の特急券が必要ですが、 自由席ならばこれも増税前の価格は大人840円、小児420円でした。
計算してみましょう。今回は電車の本数が多い路線を優先して、 天王寺から大和路線(やまとじせん)で奈良方面に出ることを考えます。 大和路快速は大阪駅から奈良方面まで直通しています。
まず、発駅「おおさか」、着駅「しんおおさか」を入力します。
まず最初の路線は大阪環状線です。 「おおさかか」まで入れてEnterキーでもいいですし、 半角大文字でAを入れてもかまいません。
次は関西本線です。 「大和路快速」という愛称名でも認識するので、今回はこれを入れます。 「やまとじ」まで入力してEnterキーを押します。
そのあとは「なら」と入れます (金色で表示されている愛称名の直後では、Shift+英字 のキーは使えません)。 そのあと、B:新幹線 です。
さて、最後にもう一度Enterキーを押して、計算です。
「経由: 東海道」の下の行が枠からはみ出しているのでスクロールさせると、 大人160円、小児80円という結果が見て取れます。
ただし、ここに出ているのは残念ながら、消費税が8%になったあとの運賃です。
MARS for Windowsでは、 常に最新の路線改廃・価格変更に対応したバージョンを提供する方針のため、 消費税5%時代の金額を計算してくれるバージョンはもう配布していません。
(SWAに確認してみたところ、 古い版もそれなりに手元に残っているとのことですが、 あとから発見された不具合を旧版にさかのぼって修正してはいないので、 旧版を入手しての使用はおすすめできないとのことでした。)
ただ、消費増税とともにそれとは無関係な部分の約款や、 あるいは大阪〜新大阪のキロ数まで変わったわけではないので、 増税前の時刻表が図書館などにあれば、それで確認することができます。 ピンクのページの中に表がいくつもあって迷いますが、 今回使うのは「電車特定区間の普通運賃表」です。 (今回の経路のうち、奈良→京都間は電車特定区間の図に載っていませんが、 最終的に計算するのは大阪から新大阪に直行するルートでの運賃なので大丈夫です。)
また、MARSでは特急券の金額も算出しません。 特急券は、ピンクのページの最初の三角表で京都〜新大阪を索きます。
さて、ここまでさんざん引っ張っておいて恐縮ですが、 この経路を実際にたどると間違いなく、 京都駅の中間改札機を通れずに有人通路での対応になります。 おそらく京都駅では日常茶飯事と思われるので大丈夫だとは思いますが、最低限、 この窓口できちんと説明できるだけの「心の準備」が必要です。
詮ないことですが、そういう事態にきちんと対処できる自信がないかたは、 素直に大阪⇔京都の往復乗車券を買って、片道は新快速、もう片道は新幹線、 というのが無難だと思います。この往復運賃は大人1120円・小児560円ですので、一種の「保険」として決して高いとは思いません。
山手線や大阪環状線が出てきました。 ところで、「山手線一周って、いったいいくらするんだろう」 と思いを巡らせたことはありませんか? 実はこれ、訪日した外国人が東京駅でよく注文するルートだとも言われています。 (私はJRの関係者ではないので、真相はわかりません。)
実際の山手線は、山手線専用の線路を周回しています (たまに点検工事や事故などで、 並走する京浜東北線の線路に乗り入れることはありますが)。 でも、MARSや、JRの本物の運賃計算システムでは、 山手線は下図のように分割されています。
このように分かれている理由は、ひとことで言えば 「ひとつの区間は必ずひとつの路線にだけ所属する」 という制約を設けることによって、 コンピュータでの計算処理が大幅に簡略化できることにあります。
また、JRの約款で同じ路線として扱う区間は、 コンピュータ上でも同じ路線になっていたほうが都合がいい、という理由もあります。 たとえば、東京〜品川間は東海道本線、新幹線、山手線、京浜東北線、 横須賀線がそれぞれ違う線路を走っていますが、すべて同じ路線と見なされるので、 切符を買うときにはどの路線に乗るかは指定されず、 そのときそのときで都合のいい電車に乗ることができます(ただし当然ながら、 新幹線を選ぶ場合は、この短い区間だけであっても別途特急料金がかかります)。
歴史的には、東京という街が発展し、 東海道・品川方面から東京駅を抜けて上野や埼玉・東北方面へ、 逆に東北から東海道へと通過する需要が増えてきたときに、 当時まだ一面の田圃が広がっていた山手地域 (現在の地名でいうところの渋谷・新宿・池袋周辺) に貨物列車のための迂回路が作られたのが、山手線のはじまりです。 山手線という路線名もこの地域に由来します。
さて、丁寧に入力して計算してみましょう。 時計回り、反時計回り、どちらでもいいのですが、 とりあえず時計回りで計算しましょう。
発駅に「とうきょう」、着駅にも「とうきょう」と入力します。路線は順に、
計算結果は次のようになります。
もっとも実際には、「山手線一周」という注文があったときには、 正直にこのルートの切符を出すのではなくて、たとえば「東京→有楽町」 のような往復切符(140円×2=280円)を出しているそうです。 この場合、きっぷの解釈としては、まずは行きの切符を使って、 東京から時計回りに有楽町へ直行します。そのまま下車せずに、 有楽町駅を出た時点で帰りの切符を使い始めることになり、 渋谷・池袋方面へと「大回り」する、ということになります。
なお、インターネットの掲示板などで頻出の話をひとつ付け加えておくと、 入場券(140円)で東京駅の改札を通り、 電車に乗ってまた東京駅から出てくるというのは不正行為です。
不正行為が発覚したときには厳しいペナルティが待っています。 今回は単なる往復切符ですが、定期券の場合、 特に学生さんが通学定期券で不正行為をした場合には、定期券の没収で済めば御の字、 悪質な場合には連帯責任として在籍校全体に対して通学定期券発行停止、 という措置がとられることもあります。 くれぐれも「バレなきゃいいや」と軽く考えることのないようにしてください。
MARSでは経路を一つ一つ手作業で入力する、というのは最初に述べた通りです。 しかしながら、発着駅の組み合わせによっては、 経路を全く指定しなくても特定の経路を算出してしまう、ということがあります。 ここではそういう例をひとつご紹介します。
発駅に「しんこうべ」、着駅に「うわじま」と入力し、 経由欄には何も入力せずにEnterキーを押すと、このような結果が出ます。
これは、
さて、また意地悪をして、Yahoo!で検算してみましょう。 新幹線は騒音対策のため、また、線路のメンテナンスを安全に行うために、 深夜0:00から朝の6:00まで原則として営業運転しないことになっているので、 「5:59出発」で計算させることにします。また、詳細設定のバーを出して、 「空路」など余計なものをはずします。
さて、結果は…
なんということでしょう!!キロ数も金額も、 違っているではありませんか。
これは、Yahoo!のバグか、あるいはMARSが自動計算した経路が正しくないのか、 どちらかです。どこでどう食い違ったのか検証しないことには、 どちらも怖くて使えたものではありません。
改めて計算してみましょう。 今度は、Yahoo!に出てきた特急列車の名前を入れてみます。
計算結果は次のようになります。
今度はYahoo!の計算結果と一致しました。
比較してみましょう。あとから算出した経路では、向井原〜伊予大洲間で 「予讃2,内子,予讃3」という路線を通っています。
この種明かしは、路線図と紙の時刻表の該当ページを丹念に読み込むと出てきます。 この区間には海沿いと内陸の2本の線があり、 特急列車は距離の短い内陸の線を通っているのです。
あらためて路線図を示します。
歴史的には、海沿いの平坦な経路が先に開通したあと、 技術の進歩に伴って内陸をショートカットできるようになり、 今では海沿いを走るのは地元の住民のためのローカル列車のみになった、 という経緯を経ています。このような形跡は全国各所にみられます。
このように2本の線がある区間では、「どちらの経路のきっぷも発行するけれど、 短いきっぷで長い路線にも、逆に長いきっぷで短い路線にも乗ってよい」 というルールになっているところが大半です。こういう規定を 「選択乗車」といいます。JRの窓口できっぷを買うときには、 何も言わなければ短い経路で発行されることが多いようです。
しかしながらMARSでは、歴史的な事情により、 選択乗車できる区間で長い経路を指定しても、短い経路を示すことはありません。 SWAいわく、遠い将来の課題とさせてほしい、とのことです。
ただし、「必ず短い経路のきっぷを発行する」というルール(経路特定) になっている区間では、長い経路が入力されたときにそのまま計算すると、 実際に発行されるきっぷと食い違ってしまいますので、 これにはきちんと対応しています。
たとえば、下記の「品川〜(川崎 or 新川崎)〜鶴見」が一例で、 品川から横浜まで横須賀線を使う場合でも、東海道線のキロ数が適用されます。
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